「はい、ありがとー。結果は放課後くらいには教えるからねー」
 複数の女生徒から紙片を受け取り、ポケットへとしまい込んでゆく。
 チャイムは鳴り終わり、三々五々に散っていく生徒達。
 その殆どが同性同士のまとまりで、
「あーちゃん、まだ回収されますの?」
 校舎へ戻る三人の元へ戻ってきた天梨に声を掛ける。
「うん。大体回収したんだけど、あともうちょっとねー」
 言いつつキョロキョロと辺りを見回す。
「あはは、せわしないねぇ」
「ま、楽しいからいいけどねー。・・・それより千華は?書けた?」
「ん?・・・んー、まだかな」
「えー。折角この時間で男子見定めてたんじゃないの?」
「やー、本読んでたからー」
「うふふ、勉強熱心ですわね」
「・・・そうよね、応援もしないで」
「妃だって似たようなもんだったじゃん。あんなにやる気無く応援できるなんてある意味才能だよ」
「・・・照れるわね」
「褒めてないよっ!・・・あ、未回収組発見。ちょっと行ってくるー」
 輪を離れて先を行く女生徒達に声をかける天梨。
「・・・あれもある意味才能ね」
「あーちゃんは元気さんですから。・・・そうそう、この間あーちゃんと二人で隣町の占い屋さんに行ったのですけれど」
「あ、それ聞いたことあるかも。良いことばっかり言ってくれるのに何だかよく当たるって、あの?」
「そうですわ」
「・・・確か、お店開く前から長蛇の列じゃなかったかしら」
「だよねぇ。開店した時にはもう閉店まで埋まっちゃうって、誰かが言ってたよ」
「えぇ。ですからお休みの日に頑張って並びましたわ」
「ほぅほぅ。それでそれで?どんな事占ってもらったの?」
「ええと、色々聞いてはみたのですけれど・・・一番印象的だったのはあーちゃんの恋愛についてでしたわ」
「天梨の?へー、内容気になるなぁ」
「そうですわね、あーちゃんも自身の事ながら面白がってましたし、あとで直接お聞きするとよいですわ」
「・・・詩羽は?あなたも恋愛のことかしら」
 詩羽はきょとんとして、すぐに微笑み、
「うふふ、わたくしは進路についてですわ」
「進路?」
「ええ。どんな学校にいけばいいのか、どんなお仕事が合うのか、とかですわ」
「おーさすが詩羽ちゃん。真面目だねぇ」
「・・・たかが占い師に進路相談してもロクな答えは返ってこないでしょう」
「いえいえ、それがなんだか素敵なお言葉をいただきまして」
 胸に手をあて、軽く目を瞑る。
「こう、もっと色々な事に目を向けていければいいなと、そう思うようになりましたわ」
「へー、じゃあとても良い占いになったんだね」
「ええ、とても」
 と、前方から軽やかな足取りで天梨が戻ってくる。
「たっだいまー」
「おかえりー」
「おかえりなさい」
「やー、これで何とか全員の投票が終わったよ。これから集計だー」
「うふふ、わたくしもお手伝いしますわ」
「うん、せんきゅー。次もテスト返却だし、さくっと出来ちゃいそうだなー」
「・・・占い」
「ん?なに、妃?」
「・・・占い、行ったのでしょう」
「あ、うん、行ったよー。あれ、なんで知ってんの?」
「今わたくしが話題にあげましたの」
「あぁそっかー。うん。占い楽しかったよー」
「・・・そう」
「でた!妃の『そう』!振るだけ振っておいて興味が無いってどういうこと!?」
「あはは、まぁ妃のはいつものことだから。それより天梨、恋愛の占い結果どうだったの?」
 すると待ってましたとばかりに指を鳴ら、ないが、
「お、いいねー聞いちゃう?じゃあ教えてしんぜよう」
 軽く咳払いをして、
「とりあえず結論から言っちゃうと、つきりんが合うみたいなんだよねー」
「へぇー」
「・・・・・・」
 同行して結果を知っている詩羽は笑顔のまま、千華は曖昧な表情で軽く感嘆し、
「ま、というのもね?あたしに良い人の条件ってのが二つあるみたいで・・・っておーい妃?聞いてる?」
 妃は無表情のまま無言を貫いている。
「・・・別に。聞いてるわ。先を話しなさい」
「ふむ。・・・でね?条件の一つは今身近にいること。談笑できるくらい近い人だって」
「へー、でも天梨、結構色んな男子と喋ってるよね?」
「んーまぁね。でも条件の二つ目が鍵なんだよ・・・」
 いつしかある教室の前に着いていた四人は、立ち止まったまま天梨の言葉に耳を傾ける。
「二つ目って何?」
 千華の投げかけた質問に、天梨は軽く手招きをして四人の肩が触れ合うくらいに近寄らせると、
「・・・うさぎを飼ってること、だって」
 小声でそう呟く。
「おぉ、それは条件厳しいねぇ」
「でしょ?だから、あ、これはつきりんしかいない!って思ったんだ」
「・・・・・・」
「確かに、男子でうさぎ飼ってるってわかるのは月理だけだねー」
「そうそう。・・・あれ、妃なんで立ち止まったの?」
 立ち止まって三人から少し距離の開いた妃は、思案顔のまま辺りを見回し、
「あれ、どこいくんだろ?」
 男ばかり三人で歩いているところへ近づいて、
「・・・ねぇ、五橋君」
「ん?どうしたの、姫王子さん」
 足を止めて振り返った男子生徒に、
「・・・うさぎ、飼ってくれないかしら」
「・・・へ?うさぎ?」
 鳩豆の顔をする。
「えーと、なんでかなぁ」
「・・・彼女、欲しくないかしら」
「彼女?そりゃ欲しいけど・・・」
「ならうさぎを飼いなさい。そうすればあまr」
 シュバっと閃光が走るように千華が妃の口を塞ぎ、
「いやーなにいってんだろー妃!や、ごめんね五橋君。うちの子が変な事を口走っちゃって」
「そうそう、妃たまにおかしな事言うからなー」
 矢継ぎ早に天梨と千華が言葉を重ね、
「じゃ、そういう訳で!何でも無いからね!」
「そう、お気になさらず!」
 妃を引きずるようにその場から離れる三人。
「・・・・・・」
 言葉を差し込むまもなく退散されてしまった男子生徒は、暫し固まった後、
「どしたー?」
「・・・いや、なんでもなかったみたい」
 首をひねりつつ、元の輪へと戻って行った。
 一方、詩羽の元へと戻った三人は、
「ちょっと妃!?何してんのよ!」
 小声で問いつめる天梨に、
「・・・うさぎ、飼えばいいのでしょう」
「え?」
「・・・あなた、あの人と仲良いじゃない」
「?どゆこと?」
「あぁ」
 気付いた千華が、
「天梨と五橋君は仲が良いから、それでうさぎを飼えば占いの条件を満たすんじゃないかって、そゆこと?」
 コクコクと頷く。
 すると天を仰いで片手で顔を覆った天梨は、
「あのね、妃。運命の人なんだから強引に作ったらダメでしょ」
 窘めるように紡ぐ言葉に、
「・・・なら除外なさい」
「・・・何を?」
「多分、月理君の事ですわ」
 再度、コクコクと頷く。
「つきりん?・・・うーん」
 腕組みをして首をひねり、
「でもなー、丁度いいっちゃー丁度いいんだよなーつきりん」
「・・・・・・」
 辺りを見回し、フラりと歩きだそうとして、
「待った!どこ行こうとしてるの妃」
 ガシッと妃の手首を握る。
「・・・彼もよく喋ってるわよね」
 視線の先には、
「満多君?まぁ話すけど・・・あ!またうさぎ飼うか聞くつもりでしょう!?」
「・・・・・・」
 無言で肯定しながら天梨を見やる妃。
「・・・あーもぅわかったよー」
 妃の手を放し、
「とりあえずつきりんは対象から除外!はい、いいでしょこれで」
「・・・結構よ」
 すると嘆息し、
「もぅ、これであたしの恋愛計画が一歩遠ざかっちゃったよ」
「まぁ、この世の中広いですから、どなたか素敵な方がきっと現れますわ」
「そだよ。天梨人気あるしねー」
「くっ、人気上位陣に言われると心安らぐような微妙なこの気持ち!」
「・・・それで、他には何を言われたのかしら」
「うん?あぁ占い?んとねぇ・・・」
 チャイムが鳴る。
「あ、やば、予鈴だ」
「あらあら、これから着替えるのは大変ですわ」
「次はこのまま受けるしかないかぁ」
「・・・仕方ないわ」
「それじゃまた後でねー」
「うん、またねー」
 寸暇を惜しむように会話の飛び交う喧噪の中、四人はそれぞれの教室へと入っていった。
 
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