放課後の日溜まり

 白灰の箱物が、人々を排出する。
 一様に揃えた身姿。
 嬌声をあげて駆け出す者、静かに歩みを進める者、一人その波から外れる者。

 それを見届けると、私も行動を始める。
 小走りになるところを抑え、あくまでも優雅に。

 別の箱物の、人気の無い緩やかな階段。
 定位置へ腰を下ろし、姿が見えるのを待つ。

 やがて姿が見える。
 急がず慌てず、静かに歩いてくると私の傍へ腰を下ろす。
 そうして暫し時が流れる。
 その間会話は無い。
 相変わらず無愛想な客人だ。
 それも良いだろう。

 ふと気付いたように、鞄へと手を伸ばす。
 良かろう。
 鞄をまさぐる手つき。
 しかしなかなか目当ての物が出てこない。

 おもわず一声。

 急いてなどいない。
 ただ、くれると言うならば甘んじて頂いておこう。

 そうして取り出された物を、掛け声の前に引っ掴む。
 しっかりと、たんまりと頬張る。
 目の端にとらえていた驚きの表情も、すぐにあがる小さな嘆息も、全て見えているのだ。
 その上で、あえて食べるとしよう。

 一息。
 食べ尽くした跡は我ながら綺麗なもので、欠片も見当たらない。

 歩き出す。
 一瞥し、先を促す。
 後追いする歩幅は私より大きいが気にしない。

 箱物の角を曲がると、そこには斜陽の楽園。
 緑のベッドはいつだって柔らかで、心地良い微睡みを与えてくれる。

 客人も然り。
 勝手知ったる寝室にやおら寝そべり、私を見て微笑む。
 慈しむべきものであろう。

 そうして双方、温かな闇へと落ちてゆく。
 心配は無い、変化には敏感な方だ。

 稜線の浸食に食傷気味の太陽も、やがて諦めたように眠りにつく。
 代わりを果たすように、私はゆっくりと目を開く。

 声をかける。
 客人はゆっくりと身体を起こすと、手招きをする。
 仕方が無いが、少しだけ寄り添う。

 ひと撫で。
 くすぐったい気持ちもあるが、悪くない。
 こちらも返そう。
 一層柔和な表情が、悪くない。

 同時に立ち上がる。
 挨拶は無いが、見送ろう。
 客人は角を曲がり、視線を投げかけながら退出する。
 いつもの通りだ。

 ちいさな宴は終わりを告げる。
 寂寞を思うものでもないだろう。

 歩き出す。
 夜には夜の寝室というものがあるのだ。

 歩きながら空を見上げ、息を吸う。
 そして声を響かせる。

 決して鳴いてなどいない。
 客人の帰路に彩りを添えただけ。

 また来るだろう。
 それならば、もてなすとしよう。

 少し浮かれた足取りを、まだ月は見ていない。
 そんな自身を小さくほくそ笑む。

 箱物を飛び越えると、私は明日へと消えていた。
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