おもいのとどけかた

 呼吸が止まる。
 あなたの仕草とその声に。
 呼吸を止める。
 あなたを想う気持ちを漏らさぬように。

 ゆっくりと育んだはずだった。
 その心は言うなれば漫然と進み、惰性のように小さく降り積もっていくはずだった。

 追ってしまう姿。
 そして追った視線の先。
 見知った姿に見知らぬ姿を見ていることに気付いたのはいつだっただろう。

 輪郭の無い焦燥感。
 気付きを得てしまえば、それは心を覆わんばかりに侵攻してくる。

 そうして閉じこもってしまえば、それでおしまい。
 終点まで辿り着いた物語は消えゆくだけ。
 曇った水晶にはぼやけた輝きしか見えなくなってしまう。

 はずだった。

 視線。
 その視線はその姿だけを追っていないと知った。
 小さく泳ぐ視線は私を見つけ、安心したようにそっぽを向く。
 頬を小さく掻きながら。

 その仕草に息が詰まり、有らん限りの心声を発する。
 終わっていなかった、と。
 見てくれていたのだ、と。

 それならば、私は進もう。
 そっぽ向くはにかみを正面から見据え、声をかけ、心を与え、その萌芽を待とう。

 それでも、今は足りないものがある。
 追った視線の先。
 焦りに至らない戸惑いに震える友にも、自身が持つその想いの形を伝えたい。

 そうして迷いは消え、道が開ける。
 やがて来る岐路にさえ微笑むことができるだろう。
 
 駆ける音がする。
 かかる声がある。
 私は今日も、それに応える。

 それが私の届けかた。
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