幸せの猜疑と甘受

 柔和な笑顔に優しげな声音。
 発するはたわいもない日常の会話で、それすらも温かみを帯びている。

 振り返る。
 今見た自分は誰なのか。
 その誰かは何を見ているのか。
 自問自答は猜疑を生み、育てた平穏を砂城に見立てる。

 やがて潰えるだろう。
 登り切った感情は下るしかなく、高く舞い上がる程に失墜の幅を大きくする。
 それは世の常だと決めつけて、深入らなければ平坦でいられると願って、私は傍観と他人事を選択する。

 そう続けてきた。
 これからも続くものだと思って、淀んだ世界を斜に見て自嘲していた。

 一人。
 ただ一人、出会った。

 その笑顔は日常に彩りを与える。
 それのみならば猜疑に生きる事に変わりは無い。

 驚く声は自身から。
 羨む心も自身から。
 
 笑顔で照らす全ては温かく、終わりを見せようとしない。
 どうしようもなく続いていくのだろうと思わせる。

 照らした物陰に残る澱を温め、小さな温泉を創る。
 絡まり固まる人心は柔らかく解され、丸い毛糸玉になって心に収まる。

 今が良いと。
 ここにいる事が幸せだと。
 言い切りながら笑う姿は、ただ眩しい。

 甘やかに受け入れる事。
 心を満たし、自身を温かみに漬ける事。
 そうしてあなたは、また微笑む。

 ふやけた心は辺りへ融解し、こわばった心を解いていく。
 そうありたいと願う姿を実像し、それが出来ないという不安を虚像に変えていく。

 そんなあなたを、そうあり続けるあなたを、私はひたすらに掻き抱く。
 続く確信を得続けるために。
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