とどいたさきに

 視線が射るというのならば、その矢は尽きることを知らない。
 しかし貫くに至る矢は無く、累々と積もったまま。

 人波を潜るように、常に視界へ招き入れる。
 背を少しだけ丸め、手にした本を眺めている。
 時々背を伸ばしながら、歩く速度は誰よりも遅い。

 ゆっくりと近づいたつもりでその実、背中まで数歩。
 小さく手を挙げてみて、すぐに髪へと誤魔化す。

 それでも、と。
 知覚の一歩を踏み出すため。

 一声を。
 どうか一声を。
 絞り出すように、少し苦しい。

 響いたのはどこだろう。
 震えない空気は、確かにあなたを見ている。

 届くのだろうか。
 渡らない波紋は、あなたをその中に取り込んでいる。

 そうして追いついて、追い越す。
 盗み見ることもできない瞬間は、やはり少し息苦しい。

 すぐにくる丁字路。
 今日も、別離に至る過程は痛い程にわかってる。
 それでも、後ろ髪を引かれた躊躇無き歩みを、私はやめない。

 すぐ後ろから、少し後ろへ。
 足音は遠ざかる常で、今近づく足音は他者のそれだろう。

 不意に発せられる、滲んだ音。
 思わず、それでもゆっくり振り向いて、声の主を知る。

 晩秋の類か。
 二人の顔を彩る紅はおさまること無く。
 歩んでいた両の足も止まり、俯き合う。

 瞬間に時が流れ去る。
 差し出された温かな手も、掛けられた声も、ただ頭の中を滑っていく。

 それでも、と。
 ゆっくりと手を差し伸べる。

 二つの小指が小さく交じる。
 二人に言葉は無い。

 歩き出したその先に、道は確かに続いていた。
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