常備酒

 常日頃お酒を嗜む者にとって、常備すべきお酒の悩みはつきません。
 
 どんな場面でも、この一本があればよいと思えるお酒に出会いたいものです。
 
 とはいえ、状況によって呑むお酒を変えるのも楽しみの一つでしょう。
 
 ここでは食事を主軸として、その前後を含めた時間で呑みたいお酒を紹介したいと思います。
 
 
 まずは食べ始める前に食欲増進や気分高揚を誘うお酒、いわゆる食前酒につきまして。
 
 どんな場面を想像するにも色々あると思いますが、よくある状況として仕事帰りで帰宅してそのまま一杯といったところでしょうか。
 
 最初はビールとよく言いますが、ここは始めから日本酒で考えますと、すっきり喉通りを楽しみながら味わいを楽しめる『新政No.6シリーズ』がおすすめです。
 
 決して香の高い種類ではないですが、口含みで濃い目にしかし強くあたらず、静かに喉元を過ぎていく味わいが食前には最適ではないでしょうか。
 
 しかもくどくなく的確に甘みがあり、食前酒といいながらも先付として出されるような料理にもとても合います。新鮮な野菜、とりわけネギにはぴったりです。

 近しいイメージのものに『笑四季』があります。新政No.6を香高くした感じで、口元で引き締まり少々の渋みを当ててきます。
 
 どちらのお酒も冷蔵庫でしっかりと冷やした花冷えの温度がよいと思います。
 
 
 続いては食べながら呑むお酒、食中酒です。
 
 料理の種類によって数多の取り合わせがありますが、その中でも油もの、そして鍋物に合わせるお酒を選びます。
 
 食事に合わせるのに考える素敵ポイントは、いかに食と調和をとりつつ自分の味を出せるかだと思います。
 
 そこでよくある油ものに合わせるのに最適なのが早瀬浦の純米酒です。
 
 控えめならがも華やかな香りを煌めかせて発散していく辛口感は心地よく、余韻としてほの温かい吟香がじんわりと滲むのも素敵です。
 
 鍋物には『松の翠の純米大吟醸酒』が欠かせません。
 
 口付けて舌下を緩やかに立ち昇る濃密で艶やかな果物感、波紋のようにしとやかに痺れさせるコクとキレの良さは、特に寄せ鍋のような魚介類と野菜が種類豊富に入った鍋物におすすめです。
 
 ただ鍋物で欠かせないといえばしめの炭水化物ですが、こちらでは酸味がやや尖って旨みが逓減するため、よりお米本来の味わいをしっかり残すお酒に切り替えるか、ぬる燗にして風味を増すとよいと思います。
 
 こちらのお酒は自然のままの温度、いわゆる冷や酒で呑まれることをおすすめします。
 
 またどちらも和食料理との相性が抜群に良いので、是非合わせてみてください。
 
 
 そして食事の余韻を楽しむためのお酒、食後酒です。
 
 ある程度濃い口の、ゆったりと呑めるお酒を選びたいものです。
 
 そこでおすすめなのが『三千盛の純米大吟しぼりたて』。
 
 立て香はさほどありませんが、口含みの独特な艶かしい酒香は気持ちを酔わせ、舌表を掠るように苦味が撫でてゆく感じはまさに筆舌に尽くしがたい味わいです。
 
 更に楽しむには同じく『三千盛の超特原酒』。
 
 軽い粘度のあるような一滴一滴が口に滑り込んでくると、喉元をジリジリと焦がしながら落ち込み、後には痺れるような酒熱を残していくのがなんとも癖になります。
 
 しかしながら口に粘らないすっとした後味が幾許かの軽やかな印象を与えて、次の一杯へ誘います。
 
 これらのお酒は冷やでも花冷えでもよいので、気分に合わせて呑み分けてみてください。前半冷やで後半は花冷え、なんていうのもオツではないでしょうか。
 
 
 最後のおまけに、寝酒とならない程度に程よく夜更けに呑む、寝前酒について。
 
 米本来の味を確かに伝えながら、しかし就寝準備の落ち着きを持たせるためのお酒といったらこれは『作 雅の智 中取り』で決まりでしょう。
 
 するりと落ちる緩やかな微香が喉伝いに淡い花道を作り届けてくれるイメージができてしまいます。
 
 口当たりの丸みからいくらでも杯を傾けてしまいそうですが、幾度呑み重ねて出てくる舌先への小さな渋みが、おもわず手を止めて感慨に浸らせてくれるのがじっくり呑めるポイントだと思います。
 
 
 備えに数限りのある限り、悩みはつきません。備えて尚、選び出す楽しみが尽きることはありません。
 
 今宵もあなたに素敵な一杯が届きますように。
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